この8月31日をもって天神のランドマークのひとつでもある『IMS(INTER MEDIA STATION)』が閉館する。天神ビッグバン計画は、これからの天神の街を大きく豊かなものにしてくれるのは間違いないが、反面でこれまで天神の象徴だったものが無くなっていく寂しさも感じている。
西鉄ホール
思えば天神の街に文化やエンターテインメントが色濃く根付き始めたのは、1989年、イムズやソラリアプラザ、ユーテクプラザ天神ができて街が彩りを放ち始めた頃ではないだろうか。そして劇団四季が福岡に初めて専用劇場である『福岡シティ劇場』をオープンさせたのが1996年、その三年後1999年には『博多座』が開場。歌舞伎やミュージカルがいつでも観ることができる街になっていった。そして『イムズ芝居』から始まり西鉄ホールやイムズホールなどが集結して2007年から開催された『福岡演劇フェスティバル』の存在も大きい。この頃、ヴィレッジヴァンガードの登場でサブカルチャーとメインカルチャーがはっきりと区別されていたように思う。ジュンク堂が初の大型書店として開店したのが2001年。90年代後半から00年代にかけて商業施設と同様に文化やエンターテインメントも大きく動いていた。
ライブハウス『照和』
福岡は全国屈指のアーティストを生み出した場所だ。天神にあるライブハウス『照和』が輩出した財津和夫や長渕剛、海援隊といったフォークソング・アーティスト、シーナ&ロケッツやロッカーズなどのロック・アーティスト、そしてチェッカーズや松田聖子を代表するJ-POPアーティスト、さらには高倉健や小松政夫、蒼井優や妻夫木聡、池松壮亮など、数え切れないほどの俳優もこの街から巣立っていった。
文化やエンターテインメントとは切っても切り離せない街なのだ。
私が知る限りの数十年でさえ、様々な変化を経てきた天神。個人的にはそういう時代の移り変わりの中で、この街から得てきた文化やエンターテインメントが自身の血肉のほとんどを占めていると言ってもいい。しかし、時代は変化してゆくもので、海や山が近くにある環境のおかげで全国的に“美味しい食べ物がある”街、熱しやすく冷めやすい博多の商人気質がもたらした“流行のものが手に入るショッピングに最適”な街へとじわじわと移り変わってきた。そして今、さらにビッグシティーへと変貌しようとしている。
もちろん、文化やエンターテインメントは、お腹いっぱいにもならないし、生きることに最重要なものではない。でも、人間のアイデンティティーや個性は、それなくしては出来ない。商圏が大きくなっていく街には、文化やアート、エンターテインメントなどの存在が不可欠だ。このコロナ禍で、数多くの文化やエンターテインメントが“生きていくことに必要なのか?”という命題ともいえる難題と向き合った。同時に、私たちは食べて寝て学校や会社に通って勉強や仕事をすればいいというものではないのだ、ということもハッキリと感じたはずなのだ。だからこそここ1年半くらいは音楽や演劇、映画、お笑いや美術館のアーカイブなどを配信にのせて、受け取ってきた。
新しく動き出し、大きく変わろうとしている今だからこそ、楽しく豊かに生きるために必要不可欠なのだと改めて感じることができた。劇場やホール、ライブハウスなどを運営していくことが、リスクでもあり大変なことだとは今の時代だったからこそ知り得たことだ。天神という街そのものからパワーや情緒を得て人生を謳歌するには、もっともっと街と人との協力が必要なのだと思う。福岡のこれからには街の大きさや規模に比例した「文化やエンターテインメントやアートは、生きていくために必要不可欠なものなのだ」
そうあって欲しいと願わずにはいられない。
いよいよ2024年に向けて少しずつ、天神が変わろうとしている。見慣れたビルが壊され、新しく近代的なビルが姿を現し始めている。福岡は、恵まれた場所にある。飛行機で1〜2時間で、韓国にも上海にも行ける。アジアの玄関としての役割が、これからさらに大きくなる。コロナが収束した後には、またアジア各国との交流が盛んになるに違いない。その時、天神は、まさにビッグシティーとなり国際色がこれまでよりも強くなってくるだろう。
そこに、外来者を楽しませる文化やエンターテインメントがもっともっと必要になる。もしかしたら、海外のそれすらも、受け入れなければならなくなるのではないだろうか。
アジアに、そして世界に誇ることができる街に成長してゆくのだと思うと、これからの天神に胸が躍るのだ。
●筒井あや
舞台情報誌「シアタービューフクオカ」発行人・編集長/流通業界を経てフリーランスのライターに転身。芝居好きが高じて「シアタービューフクオカ」を06年に創刊。日本経済新聞にて劇評コラム連載執筆中。取材記事執筆・編集やライブレポートなど
専門分野は舞台、映画、少し音楽
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